Floating heart
アサザ(阿佐佐)【Yellow Floating-heart】 Nymphoides peltata 軽井沢レイクガーデン
バラの花びらがスイレンに
(西欧伝説)
大むかし遠い国に、その国を横切って、大きな川が流れていた。その岸べは花の森ともいって、い
つも緑が豊かで、花の香りが充ち満ちていた。またこの花の森は、若い恋人たちの絶好のデートの場
所で、いつも若い男女が散歩していた。ところがここへくる若い女たちは、いつも決ったように、誰
でも川辺に咲く美しいバラの花を欲しがるので、男たちが競って、一番美しい花を摘んでしまうから
美しいバラは、年々減ってゆくばかりであった。
だがこの花園には、まだ誰にも摘まれず、従って一度も乙女の胸に休んだことのないただひとつの
バラがあった。それほ雪のように白く、どのバラにもない、高い香りをもっていた。ただこのバラは
惜いことに、険しい岩の上に生えていて、しかもその枝は、渦巻く激流の上に蔽い被さっていた。
そんなわけで、どんな情熱的な男でも、敢えてそれを摘もうとしなかった。だからこのバラだけは、
年年空しく咲いて空しく散り、その花片は淋しく落ちては流されていった。
ある朝、そこを一組の男女が通り過ぎた。女ほ今までにルビーのように赤い緋バラや夕焼の空のよ
うなピンクの美しいバラや、また燃える火のような赤いバラなど美しいバラの数々を貰ったのだが、
彼女は一目この白バラを見ると、ダイヤモンドのように輝やいて見えるので、すっかりその魅力にと
りつかれて欲しくなった。
男ほ乞われるままに岩によじ登り、あえて危険を犯して白バラを摘もうとした。それを見た女は、
急いでそれを止めようとしたが、時すでに遅く、男は足をすべらせて激流に落ちてしまった。激し
い流れにそのまま運はれていった。
それからほ男は誰も、再びその岩を登ろうとも、またその白バラを摘もうともしなかった。だから
白バラは、毎年咲いてはそのまま散って、その花片を激流に落しっづけていた。ところがある日、そ
れらの花片が下流でとつぜん睡蓮の花となって咲きだしたということである。
(『植物と伝説』)
by toruphoto
| 2010-07-07 21:34
| 花・植物
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