ネモフィラ
ネモフィラ (瑠璃唐草) Nemophila insignis
冥府の入口でネモフィラになった花嫁
黄泉(よみ)の国、冥府の扉は固く閉ざされていて、生命あるものは誰でも、その扉をくぐることは許されなかった。
その昔ギリシアで、冥府の入口の冷酷な扉の前で、若い女が青白く燃える地獄の炎に、蒼ざめた顔をいっそう蒼くして、泣き伏したままネモフィラの花となった。その若い女は長年の恋が稔って、恋しい男と結ばれたのも束の間で、夫を新婚の床から冥府に連れ去られて、一夜にして未亡人となった。そのわけは二人が知り合い、愛し合うようになった時、男はその恋に自分の生命を賭けていた。だから男はこの恋さえ叶えば、死んでもよいと神に祈りつづけていた。神はその純情にほだされて、その願いどおり、一度は二人を結んだのだが、同時に男の前の誓いも忘れていなかったからである。
このようにして新妻は、新婚の床から夫を奪われて、幽明はるかな冥府まで恋しい夫を訪ねてきたのであった。だが夫に逢うことは無論のこと、その姿を見、その声を聞くことさえ許されなかった。
女はついに神に祈り、冥府の扉の前で一輪の花となったのであった。 (西欧伝説)
by toruphoto
| 2013-04-19 20:44
| 花・植物