鈴蘭
鈴蘭 Convallaria keiskei
美女の涙から生えたスズラン
この物語は、北海道の室蘭がまだひなびた淋しい漁村だったころ起きた話である。
ある日、浜べに、一隻の難破船が漂着した。造作はりっばだが、長い間風雨に晒されたと見えて、
すっかりぼろぼろになっていた。ところが、そんなぼろ舟とは対照的に、中には目の覚めるような美
しい娘が死んだようになってぐつたりと横たわっていた。娘は長い間の漂流の疲れで、すっかりやつ
れ果ててはいたが、何か気高ささえもっていた。それも道理で、後から分ったことだが、彼女ほ実は
ここから遠く離れた土地の酋長の娘で、不義を働いたという罪で、村を追放されたのであった。
娘の美貌はたちまち村の若者たちの注意をひいて、さっそく川辺に小屋を造って娘をそこに住まわ
せ、何かと世話をやいてその周りに集まっていた。不満を抱き不平をいい娘を恨み憎んだのは、村の
若い娘たちであった。それも無理ではなかった。今まであれほどちやほやされていたのに、娘が現わ
れてからは、誰ひとり彼女らを振向うとしなくなったからだ。だから「あの女さえいなければ」と思
った女は、三人や五人ではなかった。そこで、ある夜大挙して娘を襲い、死体を川に投げ捨てた。
ところがその時、娘が流した涙からスズランの花が咲きだして、やがてこの川原にほ沢山のスズラン
が生い茂るようになったといわれている。 (アイヌ伝説)
by toruphoto
| 2014-05-11 20:32
| 花・植物